思いっきり時間があり
mask house 面膜、小説を読んで過ごしていけるのであれば、
読むのに最適な小説家は、バルザックだろう。
彼が書いた小説の一つ一つが単独で読む事が出来る小説でもあり、
それらが有機的に結びついて、一つの大きな小説となる。
この全93編を総称する
mask house 面膜名前としては『人間喜劇』。原題は"Comedie humaine"。
この名は、ダンテの『神曲』を意識してつけられた題名。
「神曲」の原題は"Divina commedia" 。
この『人間喜劇』は、フランス革命後のパリに取材して、
様々な下克上や、一癖も二癖もある人物が巧妙にのし上がっていったり、
華やかな社交界の描写もあれば、焼き討ちや
貧しい人たちの生活が具(つぶさ)に描かれていたりする。
19世紀の社会や風俗的な様子やそこで展開する人間模様を垣間みる事が出来る。
小説の醍醐味が詰まっていると言っていい。
最も愛すべき小説家の一人
mask houseとして挙げることができるだろう。
当時の人たちは、次にどんなものが発表されるのか、
彼が著す小説を心待ちにしていた。
サルトルが現れた時も、人々は、彼に期待するところがあったようだ。
1938年に著した『嘔吐(
嬰兒敏感La Nausée)』は、
新しい時代の幕開けを語るものとして評価された。
ただ、私が青春期に読んだ感想としては、否定的。
読んでいくうちに”La Nausée”=吐き気を感じるもので、
残念ながら、ほんの少しも、おもしろさを感なかった。
この小説の中に「三時 私は『ウジェニー・グランデ』を放り出した。
仕事にとりかかったが、気力が湧かない。」というくだりが出てくる。
人々は、このくだりを読み、
バルザックの小説「『ウジェニー・グランデ』を放り出した」
と出てくるところから、もはや、バルザックは古い。
「新しい時代には、こんなものは一顧だにしない」
と表現していると読み取ることにより、バルザックを古いものとして、
新しい時代の騎手として、サルトルを祭り上げたような傾向が生まれたようだ。
今、両方を読み返してみても、遥かに『ウジェニー・グランデ』の方がおもしろい。
そして、今や双方ともに「古典の文学」となったが、
放り出すべきは、『嘔吐』の方だろう。