Aビアスが著した『悪魔の辞典』には、様々な語彙が掲載されていて、
普通の辞典のように、その語句の意味を語っているが、
内容的には冷笑的な記述が多い。
もともとは「ウェブスター辞典」にヒントを得て、
「コミック辞書」を書こうとしていたようだ。
ただ、ちょっと、スパイスが利き過ぎてシニカルやブラック・ジョークの様相が
濃くなってしまったきらいがある。
『悪魔の辞典』ばかりでなく、彼の書く小説もそのようなスパイスが利いていた。
彼の筆の運びを称して、
「ニガヨモギの「酸」をインクの代わりに用いている」などと、
言われる事もあった。
だけども、このキビシい「酸」を、芥川龍之介が絶賛し、
それに刺激を受けて著したのが『侏儒の言葉 』とも言われる。
このような筆さばきとなった原因を彼の生い立ちに求める人も多い。
彼は13人兄弟の末っ子として育ち、
両親から充分には愛されていないと感じていたようだ。
13人の兄弟だから目も届かないというのもあったろうが、
彼の言葉に、
「人間の心は一定量の愛情しか持つ事が出来ない。
愛さなければならない対象が、多ければ多いほど、
一つ一つの対象が受ける愛情は少なくなる」と表現している。
まぁ、13人も居れば、愛情はわからないが、
目が届きにくいのは事実だろう。
ニガヨモギと言えば、聖書に出てくる「エデンの園」から追放された蛇が
這った後に生えたという伝説がある。
そして、禁断の酒「アブサン」の原料となる事でも知られる。
アブサンの毒々しい風味が堪(タマ)らないという人もいる。
『悪魔の辞典』にも、そんな香りが漂ってくるようだ。